戦国自衛隊〜女性自衛官帰還セヨ〜」総括

昨日でゲキハロ戦国自衛隊〜女性自衛官帰還セヨ」の方が
千穐楽を迎えましたので、ネタバレ有りで感想を書きます。
基本、演技に関しては言いません。
僕は役者にあれこれ言える程、演技の経験も無ければ目も肥えてないからです。
内容的な部分で書きます。
 
既に何人も指摘してますが、元ネタが「三国志演義」の「美女連環の計」。
三国志では

暴虐な董卓が、幼い献帝を擁して悪政を振るう。
排除したいが、万夫不当の飛将軍・呂布
養子として董卓を護っていて、手を出せない。
そこで司徒・王允の養女・貂蝉が一計を案じる。
王允呂布を接待した時、貂蝉を見て一目惚れし、
王允貂蝉呂布に嫁がせると約束する。
次に王允董卓を接待し、貂蝉をそのままお持ち帰りさせる。
約束破りを詰る呂布に対し、王允は養父に一時預けただけで、
後で董卓の下で婚儀が出来るだろうと言う。
しかし董卓貂蝉を側女として貰ったと思い、
いずれ妻にして貰えると信じる呂布との間に軋轢が生まれる。
やがて呂布は、貂蝉を取り戻すべく、
王允から『天下の悪・董卓を除くべし』という大義名分を得ると、
董卓を暗殺する。
漢帝国に悪政を敷いた董卓とその片腕・呂布は、
美女によって身動きが取れなくなった挙げ句、片方が排除された

こんな話です。
 
これに対し、「戦国自衛隊〜女性自衛官帰還セヨ」では、

美麗国では、暴虐な筆頭家老・斉藤正勝(新井康弘)が、
幼い主君・那須小虎(芝本麟太郎)から全てを委任され、悪政を敷いていた。
斉藤正勝を排除したくても、養子の猛将・斉藤義明(北条隆博)が
強くて出来ない。
たまたま自分の娘・麗(菅谷梨沙子)と斉藤義明が
互いを好いているのを知った次席家老の本多秀綱(勝野洋)は、
麗との婚儀を義明に約束する一方、正勝を接待して麗を見せ、
好色な正勝は麗をものにしようとする。
主君・小虎の室とする名目で麗を呼び出すと、そのまま自分の側室とする。
最初は主君への忠義の為に我慢していた義明だったが、
養父がそのような事をしたと知り、更に苦しむ。
身寄りの無い自分を拾い、武士として育て、
嫡男にしてくれた恩義が有ったからだ。
だが、彼は愛を選び、麗を取り戻して養父・正勝を殺す。
全てが上手くいったのを見届けた本多秀綱は、
娘を利用した事を詫び状に遺して自害する

こんな話。
 
あれ?自衛隊は?
多くの人が指摘するように、自衛隊無しで話が作れてしまうんですよね。
タイムスリップした女性自衛官は、実はまだ任官前のペーペーに過ぎず、
武器(六四式自動小銃と九〇式戦車)以外、何の影響力も持たないんですよね。
せいぜい、戦国時代マニアの中島早貴と、
戦国時代に来たなら一旗揚げようと思う夏焼雅が不安要素となり得るだけで、
まあ「自衛官の卵による、戦国体験ツアー」でしか有りませんでした。
アニメ「クレヨンしんちゃん〜アッパレ戦国大合戦〜」で、
武器も持たない野原一家が歴史に介入したのと、同じ程度の存在感でした。
僕は、麗姫の菅谷梨沙子と、斉藤義明に発破をかける役の夏焼雅だけいれば、
顔見せ程度の山姥一族(「戦国自衛隊〜女性自衛官死守セヨ」と話を繋ぐ役割)も
廃除して、話がまとまるように思いました。
 
まあ、「戦国自衛隊」の看板を掲げず、
「タイムスリップ戦国時代〜平成の女性が見た、とある小国の恋物語
とすれば、面白い芝居だったと思います。
やはり「戦国自衛隊」の名を掲げるからには、

  • 強力な軍事力、ただし長続きはしない
  • 有名武将との係わり合い
  • 歴史を変えてしまう力と、歴史の修正力

なんて要素が色濃く欲しかったと思います。
内容的に「三国志演義〜美女連環」でも良いんです。
上記「戦国自衛隊ならではの要素」がもっともっと強く出ていれば、
ずっと納得出来る脚本になったと思います。
 
悪いシナリオ、つまらない話とは言いません。
題名変えたら有りです。
戦国自衛隊」という名の芝居としては弱かったと書いておきます。
 
次に、戦国時代の美女連環について書きます。
まあ、貂蝉役の本多麗は、三国志と違って自分から志願してませんし、
本多秀綱は呂布よりも忠義や孝を重んじる武士でした。
那須小虎は、献帝程賢くないし、美麗国は武田と上杉
(越後上杉としたかったんだろうが、天文年間はまだ長尾家だ。
武田と上杉と言ったら、当時は山内上杉だな)に挟まれた不安定な国で、
漢帝国みたいに内で大臣が悪政敷いてる暇なんか無い筈。
つーか、財務担当の斉藤正勝が殺され、軍事担当の斉藤義明が女と共に逃げ、
民政担当の本多秀綱が自害した後、5歳の那須小虎が一体何を出来ると?
これだったら5人の女性自衛官が、平成に「帰還」せずに留まって、
美麗国を「死守」した方がマシな気が。
 
そんで、民を思う立派な本多秀綱と、忠義と愛の狭間で悩む斉藤義明という
性格設定ですが…
 
当時の武士はもっとDQNだよ。
呂布そのままの方がむしろ合ってるよ。
あの時期、親子・兄弟の家族間での戦だって多かったんですし、
娘利用なんて当たり前だよ。
 
ゆいたいです
 
下野国那須家における大関家・大田原家がケースとしては近い」
と考えていますが、こいつらがやったのはもっと生々しい話。
娘利用したから自害なんてナイーブさゼロ!
主君なんて帽子でも取り替えるように担ぎ直しますし、
追放・暗殺・乗っ取り・外国勢力の利用をやってます。
三国志で言えば、董卓呂布と李需と韓遂馬超ばっかりの国ですな、
特に北関東は。
山陰・山陽にいけば、夜神月とLとニアとメロが、
お互い隙を見つけて暗殺し組織を乗っ取る機会を伺い合ってる状態ですし。
当時の京都近辺は、壮絶な企業乗っ取り仕手戦に武力がついてくる、
油断も隙もならない状態です。
つまり、平成の気分で考えてはならない、
アフガニスタンソマリアに近い世界が戦国時代です。
アフガニスタンソマリアと違うのは、
やたら理屈っぽく大義名分にこだわったり、
妙な教養が有ったり
織田家が今川家を招いて蹴鞠やってたり、
最上義光伊達政宗が和歌の交換してたり)、
それでもキリスト教宣教師が
「こんな礼儀正しい民族は見たことが無い、キリスト教国も含めて」
と書き残すような国だったことですな。
この辺、上手く脚本に入れていたら、歴史好きなら興奮しましたが…。
 
要は、勝野洋さん演じる本多秀綱が、
娘を利用した事を詫びながら死ぬ「いい人」でなく、
「フハハハハ!麗、よくやった。これで邪魔者の斉藤正勝はいない。
たかだか女の事で父殺しの義明もこの国にはいられまい。
美麗国はわしのものだ!!」
と実はラスボスで、いい人と思っていたのに邪悪の化身で
(つーか、現代の基準で正義も悪も無いけど)、
逆上した女性自衛官が衝動的に殺してしまい、
戦国時代に幻滅して平成に帰還するとかでも良かったと思います。
三国志にしても、貂蝉利用した王允は詫びて死ぬなんて考えてませんし、
戦国時代の実在の那須家中では、大田原資清(本多秀綱=勝野洋相当)は
ライバルの大関家(斉藤家にあたる)を乗っ取って、
別な重臣である千本家を滅ぼしてます。
いい人、忠臣のように見えた羽柴秀吉織田家から天下を奪い、
徳川家康は豊臣家から天下を奪っています。
いい人と野心家と悪人が行ったり来たりするのが戦国時代人ですから
立花宗茂(絶対善の完璧超人)とか宇喜多直家(絶対悪の悪魔超人)とか、
一部の連中は除いて!)、今まで味方と信じていた本多秀綱が、
最後に最悪な裏切りを演じるってのは、僕は面白かったと思います。
 
映画版「戦国自衛隊」だって、最後は味方と信じていた長尾景虎に、
武器も弾切れのとこを襲われて全滅しています。
(小説版・原作だと、明智光秀に相当する細川藤孝に妙蓮寺を襲われて全滅し、
自分は「何故か存在しなかった織田信長の役を演じていただけだった」
と知る解釈ですが)
 
「帰還セヨ」がバッドエンドなら、最後の最後で本性を現した
本多秀綱に襲われて「帰還」出来ずに全滅、ハッピーエンドなら、
本多秀綱と戦国時代に幻滅して、それがきっかけで現代に戻るとか
(その前に、歴史に介入しない為に使用しなかった武器を、
弾切れになるまで使いまくる大立ち回りが有っても面白い)、
色々書きようが有ったんじゃないかな、と僕は思いました。
 
以上、辛口かもしれませんが、ネタバレ込みで色々書きました。
基本、好きな芝居でしたよ。