山猫のタンゴ
hatenaの編集画面では、どこからリンクされたか見えたりするんですが、
「零戦 F4F」での検索が地味に継続してあり、それについて書いたのが
http://d.hatena.ne.jp/houkouonchi/20060309/1141908893
http://d.hatena.ne.jp/houkouonchi/20060313/1142249388
と古くなっているので、改めて記事書こうと思いました。
零戦については、もうあまり新ネタ持ってないので、ライバルF4Fについて書きます。
F4Fワイルドキャットとは、
製造者:グラマン社
運用者
アメリカ(海軍、海兵隊)
イギリス(海軍航空隊:マートレットという名前で使用)
初飛行:1937年9月2日
生産数:7,722機
運用開始:1940年11月
速度: 515km/h
武装: 12.7ミリ機銃6門
発動機出力(馬力): プラット・アンド・ホイットニー製R-1830-86ツインワスプ1,200hp
という機体です。最初のF4F-1は複葉機で、F4F-3で初めて
単葉・三枚プロペラの近代的な機体となりました。
F4F-4が最も知られる上のスペックの機体で、空母搭載用の
油圧式折りたたみ翼もこのタイプから採用されました。
1機種で複葉→単葉、2枚プロペラ→3枚プロペラ、機銃数増加、エンジン強化、
固定翼→折りたたみ翼と、艦載機として進化しまくってます。はっきりいって、
艦載機としては試行錯誤の機体だったと考えます。
結論から先に書くと
「F6FやF4Uに更新せずとも、F4Fのままでアメリカは零戦を圧倒出来た」
と考えます。根拠ですが、
A.キルレシオの向上
緒戦において、F4Fは零戦のやられキャラというイメージになっています。
http://www.warbirds.jp/ansqn/logs/A001/A0005143.html
からの引用ですが、珊瑚海海戦における相互の撃墜比は
・零戦:3機未帰還+3機不時着水(海戦前搭載数37機)
・F4F:14機喪失(海戦前搭載数35)
大体2:1で零戦有利でした。
(鉄機2機を撃墜し、自機は1機を失う計算)
これがソロモン航空戦の辺りになると、1:4〜1:7となり、零戦不利となります。
長距離出撃の疲労、待ち伏せ、熟練兵の喪失等色々な要因がありますが
F4Fに簡単に勝てなくなったのは史実です。
B.対策の徹底
A.につながる話ですが、アメリカは捕獲した零戦を研究し、勝つ方策を考えました。
サッチ・ウィーブ戦法等です。決して格闘戦に入らず、一撃離脱しろ等。
アメリカ軍が出した対零戦用「三つのネバー(Never)」と呼ばれる勧告は以下の通りです。
1.ゼロと格闘戦をしてはならない。
2.時速300マイル以下において、ゼロと同じ運動をしてはならない。
3.低速時には上昇中のゼロを追ってはならない。
C.戦争は戦闘機だけの対決ではない
零戦の時の記事にも書きましたが、レーダーで位置補足をし、有利な位置で待ち伏せ、
撃墜せずとも攻撃隊をバラせば良く、レーダー連動対空砲(近接信管、VTフューズ付)を
持つアメリカは圧倒的に有利だったわけです。
D.工業能力の差
言わなくても分かるでしょう。
以上より、F4Fを運用し続けていてもアメリカの優位は変わらないと結論しました。
さて、ではF4Fでは不利な点はないのでしょうか?
僕は以下の点を注目しました。
a.携行弾数の少なさ
F4F-3からF4F-4に改良された時、機銃は12.7mm×4から12.7mm×6に変更されました。
単位時間当たりの火力を増すのは、防弾の貧弱な日本機相手には有効です。
しかし、1挺あたりの弾数は450発→240発に低下し、継戦時間では不利になりました。
また、反動による機体振動も増したそうです。
b.発着艦性能の悪さ
米軍機全般にいえることですが、戦闘での喪失と同じくらい、離着陸の失敗で
航空機を喪失しています。
防弾が十分なことの裏返し、重くなってしまった為、低速での性能が悪く、
離着陸時に事故が多発していました。
F4Fに限って言えば、胴体から脚を外にせり出す形式な為、脚間が狭くて離着陸が難しかったそうです。
また、脚も重量の割に華奢でした。こうした欠点は、F6Fである程度修正されています。
(反面、零戦は低速での性能が抜群に良く、鹵獲した米軍技術者が感心した部分です)
c.やはり1200馬力戦闘機
なにを当たり前のことを!と思うかもしれませんが、後継のF6FやF4Uといった
2000馬力戦闘機に出来て、F4Fに出来ないものがありました。
後継機は爆弾搭載量が大きいのに、F4Fは爆弾をほとんど搭載出来ません。
これは、大戦後期に日本軍の攻撃が特攻主体になった時に影響します。
特攻機に悩まされた米海軍は、もうほとんど急降下爆撃をする機会もないと見て、
空母の爆撃機を減らして戦闘機を増やしました。
F6FやF4Uは、爆撃機と変わらない位の爆弾を搭載出来るので、攻撃能力は低下しないからです。
(日本の空母機動部隊が壊滅してることもあり、急降下爆撃でなくても良くなった)
これがF4Fだと、ここまで思い切って編制変えも出来ないかもしれません。攻撃力が低下するからです。
蛇足ですが、F4Fの方が後継のF6Fより優れている部分もありました。
やや軽い、という点です。アメリカが作った2000馬力級戦闘機は、日本だったら
空母上での運用は難しかったでしょう。
ただ、アメリカではカタパルトを使うことでこの欠点を解消しています。
それでも軽空母では2000馬力戦闘機の運用が難しく、F4Fの軽量化版・FM-2が開発されています。
これはエンジンを高出力ながら軽量化し、機銃数と携行弾数も減らしたもので、
軽空母用というニッチな使用目的に合致してか
4127機とこのシリーズでは最高の生産機数となっています。
軽くまとめると、
・F4Fは、確かに零戦と単体では互角で、普通に戦うと1:2で負けるが、戦い方を変えると
4:1以上の撃墜比をたたき出せる能力のある機体だ。
・F4F単体で見てもあまり意味はない。史実通りの米軍の戦闘システムと日本式で戦うなら、
どんな機体であれ日本に勝ち目はない。
ですね。技術は進歩するので、F4Fから更新されないって仮定自体意味がありませんが、
それでも米軍は勝ちますし、それはF4Fが零戦より圧倒的に強いからではないってことです。
そして、ミッドウェーやソロモンで零戦とガチ勝負してた時よりも、一線をF6Fに譲った後に
軽空母用として改良された機体の方が、零戦のライバルなんかじゃなくなった後の方が生産機数が
多かったという事実も挙げておきましょう。零戦と戦う時期が終わってから、完成形が出たと。
(酷な言い方をすれば、日本の艦上戦闘機としてほぼ完成形の零戦と、
過渡期の機体のF4Fがライバルだったわけですな)